Wednesday, June 4, 2025

発音指導は重要か?

私がフィリピンで博士課程に在籍していた頃(ちょうど「世界諸英語論」が全盛だった時期)、何度も「発音はそんなに大事ではない」と言われました。国によって発音が大きく異なっていても通じるのだから、通じさえすれば神経質に指導する必要はない。それはその国の人の「英語の個性」なのだ——そんな考え方が当たり前のように教え込まれていました。

当時私が傾倒していた、ジェンキンズの「リンガ・フランカ・コア」では、多くの発音ポイントについて、「いくら教えても改善が期待できないので、授業の貴重な時間は別のことに使ったほうが賢明だ」とされていました。

一方、私が当時教えていた台湾では、まるで発音だけが英語教育の中心であるかのような雰囲気がありました。実際、社会全体としても「発音が北米人らしいかどうか」でその人の英語の良し悪しを判断する傾向が強くありました。私自身はイギリス留学で徹底的にイギリス発音を身につけたため、北米風ではない発音で英語を教えることが、大きなハンデになっていました。

そのためフィリピンでは、アメリカ国内企業向けコールセンターのスタッフ養成で使われているような教材を使って、アメリカ英語の発音をしっかり学び直しました。

すると、それまで以上にリスニング力がついたと実感できました。以前ほど注意深く聞かなくても、ある程度流して聞いているだけで意味が自然と頭に入ってくるようになったのです。「発音できない音は聞き取れない」という意見を聞いたときは、「極論では?」と思っていたのですが、たしかに「異なる音は、異なる発声器官の形から出る」ということを体感的に理解していないと、音の違いを聞き分けるのは難しいと実感しました。

そこで、日本の大学で教えるようになってからは、リスニング力を高めるための発音指導を意識するようになりました。私が住んでいる地域では、中学・高校の先生が発音指導をほとんどしていないようで、学生たちからは「初めて fan と fun の発音の違いがわかってよかった」など、ポジティブなコメントを多くもらうようになりました。

また、学生の中でも英語力の高い人たちは、発音がとても良い傾向にあることも明らかでした。当たり前のことかもしれませんが、発音が良い人は自信があるため、積極的に英語で話す機会をつかみ、その結果として英語力がさらに高まっていく——そんな好循環が生まれているのかもしれません。

台湾の多くの人のように、「北米ネイティブの発音だけが正しい」と考えるのはもちろん大きな問題ですが、リスニング力を高めるという意味でも、きちんとした発音指導はとても大切だと私は思います。

そんなわけで、今後何回かに分けて、発音について書いてみようと思います。たとえば、こんなテーマで:

  • カタカナ英語は英語ではない(日本語の母音で英語を発音すると…)

  • 日本人英語が通じにくいのは syllables(音節)のせい

  • コントラストが大事

  • イントネーションはどれくらい大事か?

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